リレー小説その2
< 声 >
1
"ジリリリリリリリリリリリ!!!!!!!!"
その朝、私はいつもの目覚まし時計で目を覚まし、いつものように止め、いつものように再び暖かい布団の中に潜った。
"ジリリリリリリリリリリリリリ!!!!!!!!"
"ジリリリリリリリリリリリリリリリ!!!!!!!!"
"ジリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!!!!!!"
「じゃかましぃ!!」
何度も目覚まし時計がけたたましく鳴り響き、寒さに震えながら眠い眼を擦りながら時間を見る…あ、ヤバッ!また寝過ごした!!
「お母さん!何で起こしてくれなかったの!?」
「何度も起こしたわよ。全く毎朝毎朝…」
そう、私は毎朝このやりとりを繰り返している。何やってるんだか…と自分でも思う。でも起きれないんだから仕方ない。
「ねぇ、今日の弁当はぁ?」
「そこに置いてあるでしょ。それより朝ご飯は?」
「時間無いって!いってき…」
「パンだけでも食べながら行きなさい。」
「そんなマンガみたいな事するのは嫌っ!じゃ、いってきま〜す!」
「何わけわかんない事言ってんのあの子は…」
駅まで走って10分。電車に乗って40分。そこから自転車で20分。都心から離れた郊外に私の通う学校はある。
でも学校までの道のりは苦ではない。いつもの時間の、いつもの電車の、いつもの車両の、いつもの場所に乗れば、
"あの人"に会える!あの人に会うために、辛い朝と戦いながら、毎朝ご飯も食べずに駅まで猛ダッシュ…。
って「会う」とは言っても話をした事はない。実は名前すら知らない、遠くから眺めてるだけなんだけど。
それでも、一目見るために毎日頑張る私。お陰で遅刻魔だった私は遅刻しなくなるようになった。
たったそれだけでも、あの人に出会えてとても良かったと思う。
何て事を思いながら走ってたら駅まで何とか時間に間に合った。これでいつもの電車に乗れる。
えっと、これでホームの前から3本目の柱のこの位置で待ってると…。
ほら!いつもの電車がホームに来た。ここから乗れば…。

「あれ?」
「おっはよっ!!」
「おはよ〜…」
「何ぃ、元気ないじゃん。今日は例の人いなかったとか?」
「うん…」
「ま〜たそんな事で凹んでぇ。いてもど〜せ声かけられないでしょ?」
「そういう問題じゃなくてぇ!!」
「みなまで言うな。心中察するよ。あはははは!」
「…ちょっと待てこらぁ!」
これが私のいつもの朝。これが日常。そう、今朝までは。
私は何処にでもいるような、ごく平凡な家庭に生まれ、平凡な成績で、普通に友達がいて、普通に恋をしてたりする、どこにでもいるような学生。
ただ一つだけ、誰にもない"ある力"を除けば…
Bonnie 2005/2/3
2
「うー…やっぱりお母さんの言う通り、パンだけでも食べとけばよかったァ…」
3時限と4時限の間の休み時間、机に突っ伏して死んでる私。
今朝、あの人に会えなかった。いつもあの電車に乗ってるはずなのに。
今日は朝からツイてない。テンション下がるなあ。
そんな私にはおかまいなく、あちこちでおしゃべり、馬鹿笑い、ドタバタと走り回る音。
まったく…いまどき、小学生だってもう少しおとなしいんじゃない?ここって高校2年のクラスじゃなかったっけ?
「お、いたいた…みごとにノビてるなー(笑)」
そう言いながら教室に入って来たのは、隣のクラスの金子切絵(かねこ・きりえ)だ。私の幼なじみで、まあ親友…っていうのかな?
友達の中ではいちばん古い付き合いで、私の一番の理解者…だと思ってる。私の特別な「力」の事を知ってるのも、彼女だけだ。
「まち子から聞いたんだけどさ。例の人が居なかったくらいでそんなに落ち込んでどーすんの。私の知ってるヤマジュンは、そんなオンナじゃなかったはずだぞ?ん〜?」
「もー、その呼び方やめてってば!昔みたいに、じゅんちゃんとか、ジュンペーとかにしてよ(^ ^;;)!!」
「本名が山野辺純(やまのべ・じゅん)なんだから、ヤマジュンでいいじゃない(笑)私、気に入ってるんだから。これからずっとヤマジュンって呼ぼうかなーって(笑)」
2ちゃんにハマってる女の悪のりは、タチが悪い…
「もー…エネルギー切れで動けないんだから、かんべんしてよぉ」
「なーんだ!腹ぺこだったのか〜(笑)落ち込んでるどころか、色気もないじゃん。ほーれ、しょうがないから恵んでやろうぞ」
と言って、切絵はポケットから、個包装された熊の形のグミを3個、取り出した。
「あっ!チビボーのグミだあ!ありがとー!!やっぱ持つべき物は友達だよねえ…(T^T)ウッウッウッ」
「まったく、現金な子だよこの子は。これで、繋ぎになるでしょ。あとちょっとで昼休みなんだから頑張りなさい。」
さっそく、茶色のグミを3個、いっぺんに頬張る。…う〜ん、甘酸っぱいシアワセ…
「この、安っぽいコーラ味がたまんないよね〜(^ ^)」
「安っぽいだけ余計だわ。あんた、ちっちゃい頃からコレが妙に好きだったもんね(笑)」
予鈴が鳴った。
「あ、じゃあまたあとでね。4時限目も頑張るんだぞ、ヤマジュン。」
「う…もー、また言った〜(^ ^;;)!」

4時限目の生物の授業が始まった。
甘酸っぱいグミの後味を舌に感じながら、私はぼーっと、今朝、会えなかったあの人の事を考えていた。
いつか、話せるようになるのかな。あの人はきっと、私の事なんか気付いていないはず。
明日は会えるかな…思い切って声をかけてみようかな。変なやつだと思われるだろうな。名前も知らないのに……
でも、私がこんなにあの人に惹かれるのは、なぜなんだろう?なにか…他の人には無い…なにかを感じるんだ。
もしかして私の、特別な「力」と関係が……?
黒板の横には、大きな、文字だけのカレンダーが掛かっている。
今日は2005年2月7日月曜日、か…あと一週間でバレンタインデーかあ。…バレンタインまでには、話しかけられるかな…
「……のべ」
遠くから見てるだけでも良かったのに、一日会えない日があっただけで、なんかすごく変な気分。
もっとあの人の事を知りたい。そう、知らなくちゃ…
「山野辺。」
ようし、明日、あの電車で会えたら、勇気を出して話しかけよう。最初は…なんて切り出そうかな。やっぱり普通に“おはようございます”かな…
「山野辺純!」
「はっ?、ハイっ!!」
カシャーーン!
あわてて立ち上がった拍子に、ペンケースの中身を床にぶちまけてしまった。
ホントに今日はツイてないかも…
凡力本店(HB) 2005/02/06
3
・・・いまどき廊下に立たせるってどうなんだろう。しかも、高校で!
リベラルな校風の弊害か、先生たちまでバラバラな方針を持ってるみたい。
学級崩壊みたいな授業でも平気な先生がいるかと思えば、生物の石垣先生みたいにすっごーく厳しい人もいる。
ガッキーの授業は気をつけなきゃいけなかったのに・・・不覚。お腹空いてるせいだ、きっと。
っていうか、今日お弁当持ってきてたかしら。
私の“力”。それは、相手の声を聞くだけでその人が誰で今どこで何をしてるか、が判る。
ケータイでもテレビ電話ができる今じゃ、大したこと無い能力だと思うでしょ?
でも、使い方によってはすっごく便利。なんせ、一方的に相手の事が分かっちゃうからね。
小さい頃は、誰でもできることだと思ってた。そんなに電話することもなかったし。
田舎のおばあちゃんが膝に子猫をのっけて電話してきたときは、「にゃんこかわいー」って言ったらキョトンとされたっけ。
小学校に入って連絡網ができて、クラスの子と電話するようになってようやく気がついた。
最初は気味悪がられて、よくいじめられたっけ。「おまえ、どっから覗いてんだ!ストーカーだろ!」って。
でも、そんな時いっつも助けてくれたのが切絵だった。
最初は先頭を切って私をいじめるリーダーだったんだけど、ある事をきっかけに誰よりも私を助けてくれるようになったんだっけ。
その頃から切絵は早熟で、周りの子よりずっとしっかりしてた。複雑な家庭の所為もあったかもしれない。
私の能力のことを人に言わない方がいい、と教えてくれたのも彼女だった。
人は自分にないものを持っていると排除しようとする、って。
今でも相談に乗って貰うし、いろんな事を教えてくれる。・・・なかには2ちゃん知識も混じってるけど(^^;
電話でなくても、背後や目隠しで声が聞こえるだけでもわかっちゃう。あと、鳥の鳴き声とかでも形や場所が分かる。
でもメールだと相手のことは分からないし、名前や地名なんかは予め知らないと分からない。
なにより、声が聞こえないことには何にもわかんない。そう、朝のホームのあの人のように。
そんな事をぼんやり思い出してると、4限目終了のチャイムが鳴り響いた。
「山野辺、今週末までにミトコンドリアについてのレポート5枚な。今後は居眠りしないように」
「は〜い」ちぇ、寝てたわけじゃないのに。
「眠くないんなら、10枚な」げげ、聞こえてたのか!ふぇぇ宿題増えたぁ・・・
そうだお昼!お弁当・・・忘れてるよやっぱり。仕方ない、買ってこよっか。
・・・お財布忘れたっていったら、怒りますか・・・。
ウダウダしてると、切絵と、それからお昼友だちの秋田まち子(あきた・まちこ)、加藤苺(かとう・いちご)、奥山望(おくやま・のぞみ)がわらわらと寄ってきた。
「おっヤマジュン、なにうなだれてんだー」
「ヤマジュンメシいくぞー」
「ヤマジュンおきろー」
「だからヤマジュンいうなー!!」
「まーそういうなヤマジュン、みんなで欠食児童のヤマジュンを救ってやろうとわざわざ来てあげたんじゃないか」
「えーん」「わーいイチゴがヤマジュン泣ーかしたー」「だーかーらー!」
・・・タチわりー友だちばっかだな、私。どーやら切絵がセッセと広めたらしい。
「その様子だと弁当も忘れたんだろ?今日は皆に学食を奢ろうじゃないか。この望様、バイト代がでたばっかりであるぞよ」
「ケッ、どーせメシをエサに“電車男”の話でも引き出したいんだろーが」
「わ、私既にサケのサカナですかそうですか・・・ってか電車男と話し話違うんだけど」
「だからその辺聞きたいジャン。まち子や切絵ばっかずるいよー!」
「そうだよ、カレシ持ちのイチゴや切絵と違ってバレンタインをどうするか、重要課題やんか」
「うぅ」「そういうまち子は、もうあげる相手は決まってんの?」
「ええ、人に奢っていかにも打つ手がございません、って顔の望様と違いますからw」
「なにーやるかー!」「フンガー!」
・・・やっぱり女の子が集まると、賑やかだね(^^;
あんまりのんびりしてると売り切れちゃう!私たちは箸って学食に行くことにした。
kai 2005/02/07
4
うちの学校の学食は、あんまり美味しくない、そして量が多い。
私の家はご飯を残すと怒られる家なのでメニューのチョイスを考えないとお腹がやばいことになる。
今日はきつねうどんにしようっと。
望ちゃんがみんなのリクエストを聞いて二台ある食券販売機にとりついていた。
やがて食券をみんなにバトンを渡す感じでぽんぽんぽんと渡していった。
きつねうどんの良いところはそんなに待たずに買えるところだね。
学食は結構広いのだけれど、それでも早めにこないと席が無くなってしまう。席を確保していた切絵と交代して席に着いた。
今日は天気が良くて私の前のテーブルに日が当たって眩しいぐらいに光っていた。
友だちがどかどかとそれぞれのご飯を持ってやって来た。
「切絵どん、カツ丼とウドンは喰いすぎだよ」
「なんでも良いって言ったのはノゾーミだー、うはは」
「金はいいんだがよう。また喰いすぎでたおれんなよう」
「望ちゃんふとっぱらー」
おごってくれた望ちゃんに感謝して狐ウドンを口に運ぶ。
風が吹いてカーテンをゆらして、私の頬を撫でた。
みんなだまって食べていた。……。なんか場のテンションが上がり始めている気がする。
切絵が男の子みたいに、がーーーっとカツ丼をかきこんでいた。
苺っちがちらちらと私を見る。
まち子たんがニヤニヤしながらみそ汁を飲んでいた。
ひい、期待されてるよう。食べ終わるのが怖いよう。
切絵がダッシュで取ったこの席は学食の中でもベストポジション。テレビと窓に近い一番良い席だ。
テレビではお昼のニュースをやっていた。昨日駅で起きた殺人事件の続報だ。
”あれ?”
力の視界の中に”あの人”がいた。
テレビ画面を見る。昨晩の事件の目撃者の証言ビデオだった。
夜の街、サイレンの音。野次馬の声。
私の能力はそれら全てに画像を作る。
あの人が居る?
集中して注視していく。海に潜っていく感じにも似る。
居る。
あの人。声を出している。電信柱が近い。野次馬の中。
何を言ってるの……。

瞬間。証言ビデオが終わって、アナウンサーの画像が視界に開いた。
きゃっと、小さい悲鳴を上げてしまった。
辺りを見たら、みんなが私を見ていた。
「ご、ごめん、ちょっとぼーっとして」
「……きつねうどんの中のぞき込んで何が見えるのかなと思ったけど、放心してたのかあ〜」
望ちゃんの呆れたような声が響く。
切絵の心配そうな視線にちょっと頷いた。
「ごめんごめん、で、なんだっけ?」
友だちの質問攻撃をさばきながら、頭の中ではさっき聞いたあの人の言葉だけを考えていた。
最後に一言だけ聞き取れた。
『……殺したのは、俺だ……』
あの人は暗い表情をして、確かにそう言っていたんだ。
かわうそうータン 2005/2/13
5
…やっぱ気になっちゃうよね。
放課後、私は学食のテレビで「見た」場所にやってきた。
もう立ち入り禁止のテープとかはなかったけど、人の形に描いてあるチョークの線とか、
警察が立てた看板が、「ここで人が殺された」って言うのを伝えている。
あの人が立っていたのは、この電信柱のあたりだよね…。
何の事はない、ふつうの電信柱。
周りの様子も、事件のあった場所ということ以外は、特に変わりないみたい。
ここに来れば、何かわかるかな〜って思ったんだけどなぁ。
…まあ、根拠はまったくないんだけどさ。
それにしても、あの人が言っていた言葉。
『……殺したのは、俺だ……』
きっと、なんかわけがあるんだよね。
もしかしたら、劇かなんかの練習とかかもしれないし。
でも、ほんとに、あの人がやったなら……。
わたしはブンブンと首を振る。
あ〜、暗い考えはヤメッ!!
あの人に聞けは全部はっきりする!
よ〜し、明日はゼッタイ話し掛ける!
あいさつして、…それから、名前くらいは教えてもらおう!
うん!
すべては明日だ!今日はもう帰ろう!
くるっと回れ右をする。
ドンっ。
振り返りざま、誰かにぶつかってしまった。
「あ、スイマセン」
反射的に頭を下げる。
あちゃー、後ろに人がいたのか…。
頭を上げる……と、そこには、あの人の顔。
えっ!どうして!?
とつぜんの登場であたふたしてしまう。
彼はじーっと私を見ている。
「山野辺さん。ちょっといいかな?」
……えっ、いま、「ヤマノベ」って言ったよね!?
な、なんで私の名前を知ってるの!?
戸惑っている私を見つめながら彼は続ける。
「ホントはキミを巻き込みたくなかったんだけど、もう僕だけではどうにも出来ない。」
「え、え…えっと…。」
私は混乱しまくる。
「山野辺純さん、キミの能力の事は知っている。その能力を貸して欲しいんだ。」
えっ、えっ、能力の事も知ってる!?
わけがわからないよぉ〜。

「すまない、あんまり時間がないんだ。とりあえず今は何も考えないで、僕をキミのその力で「見て」くれ。」
…”見て”って、やっぱり能力の事だよね…。
「え…、でも…、目の前に本人がいるのに、「見る」も何も…。」
「いいから!」
「…良くわかんないけど、「見れ」ばいいのね」
軽く集中する。
「どうだい?僕がどこにいるかわかる?」
彼の声が視覚化されていく。
…おかしい、今までにない変な感覚。
彼は確かに目の前にいるのに、力の視界の中の彼は別の場所にいる。
いつもならはっきり見える姿も影のように黒くボーっとしている。
「どう、見える?」
「あ、はい…」
彼…と言うか、黒い影は私の良く知っている所にいた。
「多分、私の学校…。音楽室の前の廊下…かな…。」
「……キミの学校か。」
彼は、少し険しい顔をし、
「わかった。ありがとう。」
そう言い残し、学校のほうへと走っていった。
…いったい、なんだったんだろう。
頭の中がハテナマークでいっぱいになる。
そして、重大なことに気付いた。
あ〜!、名前くらい聞いとくんだった〜!!
小さな音 2005/2/16
6
えと、え〜と、どうしよう?
とにかく今の事を考えてみよう。
今会った彼が実は学校に居て、でも目の前にも居てお話もして、おまけに「山之辺さん」なんて、私のことを呼んでくれて ・ ・ ・。
はぁ〜、「山之辺さん」だって。名前呼ばれちゃった。えへへ ・ ・ ・。
いかんいかん。にやけてる場合じゃない。
そうじゃなくて、彼は今困ってる。理由はわからないけど、助けを必要としている。
そして私の能力のことも知ってて、私に能力を貸してくれって ・ ・ ・。
正直、何が何やらさっぱり分からないけど、分からないままにはしておけない。
これはもう行くしかないでしょ、彼を追いかけなきゃ!いざ音楽室!!
「あ、ヤマジュン。何、鼻の穴広げてガッツポーズ決めてんのよ?」
ふと、目を前に向けると、そこに半笑いの切絵が立っていた。
「あ、切絵 ・ ・ ・」
「切絵 ・ ・ ・じゃないっつーの。ヤマジュンったら授業終わったと思ったらいつのまにやら消えてるし、こんなところでガッツポーズしてるし。」
「え、やだ、私ガッツポーズなんかしてた?」
「うん。おまけに微妙に鼻の穴広げて。ちょっと危ない人みたいよ?」
えええ〜!!もう、嫌なところを見られたなぁ。
そうだ!!
「ちゃららちゃららら、ちゃららちゃらららちゃらりらちゃらりらら〜ん。おお、これは切絵王子。探しましたよ。さあ、一緒に冒険の旅に出かけましょう!!」
「はぁ、ヤマジュン壊れた?」
「いや、そうじゃなくて実はね ・ ・ ・」
切絵に今の出来事を話してみた。ただ、殺人事件の事は黙っておいた。なんか物騒だし、彼は自分が殺したようなことを言ってたように聞こえたけど、そんなはずないし、そんなことは考えたくなかったから。
正直、一人で音楽室に行くのは心細かったし、切絵も一緒に来てもらおう。
「ふーん、なるほどね」
「で、どう?」
「なんかさ、危なくない?」
「なんで?」
「だって彼、あんたの力の事知ってたんでしょ?あんなに秘密にしてるのに何で知ってるのよ?それに、何を困ってるかしらないけれど、そのあんたの力が必要って。どう考えてもおかしいでしょ」
「それは ・ ・ ・」
「もしかして彼ストーカーなんじゃない?」
かちーん!
「そんなわけないでしょっ!もういいっ、私一人で音楽室行きます。行かせていただきます。むしろ一人が大好きですからっ!!」
「何ムキになってるのよ。あーはいはい。私がわるうございました。一緒に行ってあげるから少しおちつけ」
「ほんと?」
「うそ」
「ムキー!!!」
「あーウザイっ。一緒に行けばいいんでしょっ」
「ほんと?」
「うそ」
「うぅ ・ ・ ・うえ〜ん」
「泣くなっ。あーほんとにこの子はっ。ほらっ、よしよし、良い子良い子」
「じゃ、行きますか」
「remon dropの洋梨タルトね」
「うむ、良きにはからえ」
なんだかんだ言ったって切絵は私を心配してくれる。面倒なことになりそうだけど、こんなときだって私を見捨てないもんね。だから好き。
では、今度こそいざ音楽室へ!
「あ〜そうそう、さっきの“ちゃららちゃららら”ってローレシアの王子がサマルトリアの放蕩王子を見つけた時のやりとりだからね」
「はぁ?」
「いや、だからドラクエ2の」
「あーそー」
うおつら 2005/02/20
7
ドラクエ2の話はともかく、音楽室へ向かう。放課後の校舎は人影もまばらだった。
向かいながら私は切絵が言ったことを考えていた。
危ないとかストーカーかどうかは置いておいて、いつもこっちから一方的に眺めてるだけ
だったし、この間まで声も聞いたことがなかった彼が、なぜ私の力のことを知っていたのか、
それに名前も。それが不気味というか不思議だった。
あと何よりあの学食で聞いた(見た)この間の事件のこと、彼の声「殺したのは俺だ」って
台詞の真意。
音楽室の方から話し声が聞こえて来る。私たちは足を速める事もせず、なぜか息を殺し声を潜め、て聞き耳を立てた。いま中で何が起こっているかを。
「なんかやな感じがするよ」切絵が言うまでもなく私もそう感じていた。
力の視界の中では二人の気配があった。一人は彼、これは間違いない。
もう一人はあの黒い影のような存在?
「いい加減にしろよ!」彼の怒鳴り声が響いた。力を使うまでもなく、ただ事じゃないのは
分かった。びくりとして身を引いて「どうしよう」と切絵の方を見ようとした瞬間、切絵は教室の
ドアを開けていた。「ちょっとあんたたち何やってんの!」
ガランとした教室の中に二人が居た。正確に言うと、彼と彼の影のような存在。それらが振り向く。
切絵にも見えているらしい「それ」を、異質なモノとして感じている事は彼女の声の緊張感で分かった。
影の口の辺りが揺らぐ。「邪魔が入りやがった…どいつもこいつも邪魔ばっかりしやがって…」
特にお前、そうお前だよ。影の言葉が自分に向けてのものって事は、その感じで分かった。
目に映ったこの場の実像と、力を使ってイメージ化された俯瞰的な映像とに二重写しになって
眩暈がする。この感覚は私以外には分からないだろうな。
影は彼以外の存在、私が来ることは、いや私のことを知っていた。彼も影も。
影が私の方に向かって来ようとしたその時、切絵の存在に気付く。そして「ち」舌打ちとともに
目の前ですぅーっと消えた。

あっけにとられる私と切絵。
「なんなのあれ」さすがに冗談も飛ばせなかった。
「逃がしたか…」そうつぶやく彼の前に回りこんで切絵が青ざめた顔で言った。
「どう言う事なのか(何が起こっているのか?)、説明してもらえるかな。」
あのとき食堂でのニュースで聞いた彼の声、その言葉。その事は彼女にあえて言わなかったが、結果的に切絵も事件に巻き込んでしまったに気付いたのは、しばらく後のことだった。
有國 2005/02/23
8
音楽室のピアノの前で、立ったまま顔を見合わせる3人。
…なにが起ってるんだろう?わけがわかんない…なんだか怖い。
せっかく「彼」とお話できたっていうのに、いきなりこんなことって…
「ねえ、キョロキョロしてないで、なんか言ったらどうなのよ!?」
切絵が、怖さを紛らすようにワザと声を荒げて言った。沈黙が続くと、どんどん怖さが増してくる。
「詳しく説明したいけど、今はホントに時間が無いんだ。悪いけど、君たちも探すのを手伝ってくれないか?」
「え…探すって、何を?」
私は、相手の声を聞くだけで、その人がどこで何をしているかが判る。でも、その人が何を考えてるのかまでは判らない。その時のその人の状況が「見える」だけだ。
「あいつが探していたモノが、この音楽室の中にあるはずなんだ。あいつ…っていうか、あいつはつまり、僕なんだけど…」
そう言いながら、彼はグランド・ピアノのカバーを剥がしにかかった。
「あいつがこの教室に来たってことは、なにか確証があってのことなんだ。絶対にこの部屋に何か在るんだ。…普通の人が見ても、何気ない、目立たないものかも知れないんだけど…」
「あんた、いったい誰なの?名前は?」
切絵は、なんとか冷静さを取り戻そうとしてるみたい。
「僕の名前は、山神順也(やまがみ・じゅんや)。君たちとは、幼なじみさ。」
やまがみじゅんや…?ヤマジュン。あ、私と同じ?!これって偶然?えへへ…
切絵の顔を横目で見たけど、全然笑ってないし気付いてない。普段なら絶対、真っ先に気付いて、からかうに決まってるんだけど。こんな状況じゃムリも無いよね。っていうか、私だって「えへへ…」とか言ってる場合じゃないんだけど……
え?今何て?幼なじみ?
「あんたなんか、知らないわよ。会った事も無いし、幼なじみだった覚えは無いわ」
キッパリと、切絵。
あたりまえだよ。私と切絵は、幼稚園からずっと友達で、小、中、高と同じ学校に通って来たけど、彼とは一度も会った事無いもの。彼の名前だって、今初めて聞いたし、だいたい私が初めて電車で彼を見かけたのは……あれは…いつだったっけ…
「う〜ん…ピアノには無いのかな。金子さん、そこの教卓の中を調べてくれないかな。なにかこう…変わったものが無いか。普通の人には判らなくても、僕たちになら判るはずなんだ」
「金子さんって…なんで私の名前、知ってるのよ!それに、僕たちになら判るってどういう意味?!」
切絵がキンキン声で怒鳴った。小さい頃から、切絵は興奮するとキンキン声になる。
「さすがカンキリだね!変わってないな〜」
順也くんは、一瞬子供っぽく笑った。
カンキリ…なつかしい。小学校の頃の、切絵のあだ名だ。私が男子にいじめられてたりすると、切絵はいつも庇ってくれたっけ。怒った切絵がすごい剣幕で食って掛かり、追い払ってくれた。切絵の甲高い、キンキン声の迫力には、大抵の男子はかなわなかった。
それでカンキリってあだ名がついたんだっけ。
切絵は、ぎょっとした表情のまま、黙ってしまった。
「山野辺さん、もう一度僕を“見て”くれないか」
順也くんが、真剣な眼で私の顔を覗き込んで来た。
眼と眼が思いっきり合ってしまった。しかも至近距離で。はっとして、うつむいたけど、急に顔が熱くなってきた。きっと赤くなってるよね…(^ ^;;)。
「えっ……見るって、さっきと同じように?」
「そう。僕が今、どこにいるか。もう一度見てほしいんだ。」
「うん…やってみる。なにか話してみて…」
彼の声を頼りに、「力」を集中してみる。
おかしい…なにも見えない。こんな事って、今までに無かった。
これほど集中しても、なにも見えないなんて。
「そうか。やはり、この場所なんだ。あいつはとうとう見つけたんだ。だから、もうどこにも移動する必要がないんだよ。必ずまた、ここに現れるはずだ。この音楽室に。」
「ねえ…順也くん?」
「なに?なにか見えたの?」
「ううん…違う。あのね、お昼のニュースで見たんだけど、昨日のあの事件の事…」
「ああ」
「あそこに居たの…順也くんだよね。「殺したのは、俺だ」って…あれは、いったい」
「あれぇ〜?」
素っ頓狂な声を出して、切絵が教卓の引き出しを覗き込んでいる。
「これって…エーとぉ…」
凡力本店(HB) 2005/02/26
9
「これって…エーとぉ」
驚いたのと気味悪く感じたの半々な複雑な表情で切絵が教卓の引出しから
取り出したのは、一本の古びたカセットテープだった。
「何でこんなとこに…」それを意外な表情も見せず納得したように黙って見つめ
ている彼。
一方、「それは?」わたしは切絵に何の事かわからず聞いた。
「覚えてない?これ、むかし無くして探しても出てこなかった、わたしとヤマジュンが
小学校になった頃録ったのだよ」切絵が言う。
わたしはおぼろげな記憶をたどる。そして思い出した。確かにそんな事があった、
でもまた随分前の…懐かしい。
切絵の手からテープを受け取る。いまでは使われなくなった装置としてのテープ。
そしてそのレーベルをまじまじと見てみた。
そこにはつたない字で「わたしたちのせかい」と手書きで書いてあった。
「わたしたちのせかい」
これってわたしと切絵が小学校に入学した時くらいに録音したんだよね。
どんなんだったんだっけ…
徐々に思い出してくる。確か切絵とわたしだけで遊びで吹き込んだ他愛もない
劇だったような。いや、違う。劇は劇だったんだけど、それまでわたしの事をいじめていた…
むしろ真っ先にわたしに「何かキモイ」とかチョッカイ出してた切絵が、この時をきっかけにして
和解?と言うか、急にわたしをどんな時でも助けてくれる存在に変わったのが、
このテープを吹き込んだ時だった事を。
あの頃わたしは、今ではわたしだけが持っていると自覚している力がみんなも
持っているとばかり思っていて、連絡網とかでクラスの子と話したりし始めて、
初めて自分の特異さに気付かされた。
ちょうどその頃、その、わたしをみんなと比べた時の、「その場に居ないのに相手のシチュエーションを
想像ではなく、その場に居るように(無自覚に)言い当ててしまう」その事の…自分でそう言うのは
未だに嫌なんだけど、異常性と言うか。
「これがあの影みたいなのが探していたものって言うの?」
当時の事を思い出し、口には出さないモノローグ状態のわたしをリアルに引き戻したのは、切絵の
いたって普通な問いかけ。
「確信は持てないけど、きっとこれがそうだと思う。」と、わたし。
「再生してみよう」彼が言った。

すでに録音の媒体がテープからディスク、今、わたしや切絵の普段使っている様なシリコンメモリーに
なって久しいけど、音楽室には過去の音源の資産を再生する装置はレコードプレーヤー、テープデッキ、
それらがメンテナンスはあんまりしてない感じだけど一応はあった。
アキュフェーズ製アンプの電源を入れる。続いてナカミチのテープデッキの電源もオン。
スピーカーからノイズ交じりに聴こえてきたのは、吹き込んだ覚えのあるわたしと切絵の声…
いや、そこにもう一人、あの時そこには居なかった筈の、あの声、彼の影の声だった。
「うわ…」眉をひそめる切絵を感じた。わたしだって同じ気持ちだ。
それでも力を使うため、わたしはそのノイズ交じりの音に集中した。
有國 2005/03/01
10
『むか〜し、むかし、おひめさまとおうじさまが、なかよくくらしていました。おひめさまとおうじさまは……』
あ、懐かしい、小さい時の切絵の声…。
切絵には、よくいじめられもしたけど、色々一緒に遊んだなぁ。
なぜかちょっとだけほっとする。
お決まりの状況設定のナレーションの後に私の声。
『おうじさま、きょうはなにをしてあそびましょうか?』
力の視界には、小さい時の切絵と私が映る。
あ〜、ちっちゃい頃の私、かわいいなぁ………今もかわいいけど、…たぶん。
…場所…場所はどこだろう…?
見たことがあるような、無いような…。
『おひめさま、きょうはもりにいってあそびましょう』
不意に、男の子の声。
私と切絵は、順也くんを見る。
切絵も声の主が順也くんだと思ったようだ。
私はそれを確信している。
…だって、小型の順也くんが、力の視界に映っているんだもん。
ちっちゃい順也くんもイイなぁなんて、思ったり。
でも、これを録った時って切絵と2人だけだったような気がするんだけど…。
なぜか、記憶があいまいだ。
録音した時の事は、完璧…とは言わないけど、思い出してきている。
切絵が家からテープレコーダーを持ってきた事。
カセットテープを2人のお小遣いで買った事。
お話をあれこれ2人で考えた事。
2人で配役を取り合った事。
…私の記憶では、そう、「2人」だったはずだ。
『あ、おひめさま、あぶない!!』
でも、このテープには順也くんの声も入っている。
私の勘違いなのかな…。
切絵に訊こうとするが、私が話すより早く切絵が口を開く。
「…ジュンペー、これ録った時って、ジュンペーと私の2人…だったよね…?」
”ヤマジュン”と悪ノリすることも忘れ、切絵が私に訊く。
「う…うん。たしかそうだったはず…」
「この声って山神くんだよね?」
順也くんはテープがまわる様子を見ているだけで答える様子が無いので、私が答える。
「私が「見る」限りでは順也くん…に、見える。」
しばらく、スピーカーから流れてくる、たわいもない劇を聴く。
『わるいまじょめ!おひめさまをかえせ!』
普通だったら思い出話に花が咲くかもしれないけど、状況が状況だし、私の「思い出」には、順也くんは存在していない。
「…順也くんは、この時のこと覚えているの?」
ゆっくりと、私に視線を向ける。
無言で微笑む。でも、なぜか、少し悲しそうな瞳。
ちょっと、ドキっとしてしまう。
そして、またテープデッキに目を戻す。
…よくわからないけど、覚えてるって事なのかな?
劇も終盤に差し掛かっていると思われた時
『ガタン!』
不意に大きな音がスピーカーから鳴り、思わずビクンとしてしまった。
カチャ。
そこで、順也くんは計っていたかのようにテープを止めた。
「ここから先は、2人は聴かないほうがいいと思うんだ。とくに、山野辺さんは…ね。」
「なんでよ?」
切絵が納得いかないという感じで、順也くんに言う。
「ここから先は、過酷な真実が吹き込まれているんだ。…2人の記憶から消されている真実がね。」
記憶から消されている…?
忘れてたんじゃなくて、消されていたの?
それって、どういうことだろう…。
「山野辺さんが不思議な力を持っているように、僕も不思議な力を持ってる。
”僕に関する記憶を、自由に変える力”
それが僕の能力。」
…すぐには信じられない。
でも、それを否定するのは自分を否定するのと同じという事に気付いた。
切絵も、私の能力を受け入れている以上、信じるしかないと思っているだろう。
「記憶に手を加えるのは、負担が大きいんだよ、「見る」のとは訳が違う。相手を直接いじってしまうわけだからね。」
私のほうを向き、続ける。
「「見れる」だけでも、結構イヤな目にあってきたでしょ?」
小さかった時のことを思い出す。
確かに、能力の事で色々といじめられもしたし、見なくて良い物まで見えてしまった事もある。
「でも、悪いことばかりじゃなかったよ。」
「うん。良い事も悪い事もある。それで釣り合いが取れるようになってるんだ。」
釣り合い…か。
「僕の場合その釣り合いがね、もっと、具体的なモノとして表れてしまう。記憶をいじるとね、いろいろつじつまが合わなくなってくるんだよ。そのつじつまのズレの負担は、全部、僕自身が受け入れないといけない。」
私は、”力”で見た順也くんを思い出す。
「そのズレが…」
「…あの影なの?」
順也くんは、窓からもう暗くなった空を見上げる。

「ホントはね、この力は使ってはいけない力なんだよ。物心がつくころ…いや、その前からかもしれないけど、僕の記憶には、能力の事も、それを使えばなにが起きるかも、刻まれていたんだ。能力を使う代償は大きい。…でも、あの時は、ここで使わなきゃ、って思ったんだ。」
そして、順也くんは、私をみつめ、こう言った。
「僕は、小さいながら、そう判断したんだ。大好きだった、純さんを守るために。」
思わぬ告白。
……赤面。
「だから、あの時の「記憶」が「記録」という形で封じ込められている物…このテープをずっと探していたんだ。完全に記憶を消し去るためにね。」
視線を床に落とし、続ける。
「…でも、僕が決めるべきじゃなかったのかもしれないね。」
少しの沈黙の後、
「もうあまり時間が無い…。再生ボタンを押すかどうかは、キミに…山野辺さんに任せるよ」
小さな音 2005/3/3
11
どっ、どうしよう・・・。
震える指先。もしかしたら聞かない(見ない)方がいいかもしれない過去。
でも、知らないと一生後悔する気がする。私の、私のための記憶。
好奇心と警戒心が入り交じる。心臓がどきどきする。
知らない私がこのボタンを押すのをためらっている。
でも、今の私は・・・
「ジュンペー、よしなさい。」
力のこもらない指先を、切絵が制する。
「で、でも・・・」
「いいの。私、思い出した。この後何が起こったか。順也が何をしたか。どんな犠牲を払ったか。
ジュンペー、あんたにはまだこの記憶はつらいよ。だから、後で落ち着いてから話す。
あなた、あなたもまた『影』のひとりね。そうでしょう。」
「さすがカンキリだね。僕の能力すらも乗り越えたみたいだ。いや、むしろ僕の能力が弱くなりつつあるのかもしれない。
どっちにしてもそろそろ僕もつらくなってきたから、居なくなるよ。」
そう言うと順也君は、まるで初めからそこに居なかったかのようにかき消えてしまった。
「・・・え?何が起こったの!?」
「彼が自分で言ってたでしょ。記憶に手を加えられるって。
今そこに居たと思っていた彼は、リアルタイムで書き換えられた記憶だよ。
そして、本当の順也は・・・ここには居ない。彼の言う『影』もまた、そこには居ないの。
いや、正確には“居なかった”と言うべきなのかもしれない。」
「よ、よくわかんないよぅ・・・」
「うん、ちょっとだけ頭を整理する時間をちょうだい。後で、必ず説明するから。」
どうやら、相当こんがらかった話みたい。私の“力”を見抜いたときも相当混乱したけど・・・。
ここは切絵を信頼して、任せてあげても良いと思う。
「このカセット、私が預かるよ。」
切絵がデッキからカセットテープを取り出し、胸ポケットにしまい込む。
帰り道、いつもは饒舌な切絵が今日はふさいだままだ。
むりもないよね、あんな事があった後だもん。私だって、どこから話したらいいかわかんないよ・・・。
他の二人はとっくに帰っていたけど、今日に限ってはその方が良かった、と思う。
「もしかして順也、今度こそ・・・」
ポツリ、と切絵が言った。そして、見る間に青ざめていく。
「今度こそ・・・なに?」
「ううん、なんでもないの。」
「うそ。切絵のなんでもないは、とってもなにかあるときよ。」
「うん・・・。あのカセット、一旦止まったでしょ?あの後に起こった事、なにか思い出した?」
「えーと・・・おぼろげだけど、誰か知らないオジサンが居たような・・・。」
「うん、もうジュンペーも思い出し始めてるのかもね。
でも今はそれ以上思い出さない方がいいよ。明日、心の準備が整ったら教えてあげる。
それより、私は今順也がどうなってるのか気になる。彼は、もしかしたら他の何者かと交代してしまうかもしれない。」
「え、交代って!?」
「うん、仮定だけど。彼が存在を無かったことにした分だけ今まで無かった存在が在ることになる、と考えてみて。」
「うん。でも・・・今まで無かった存在って?」
「もしかしたら、だけど・・・。うん、確かめなきゃ」
ここで、切絵との分かれ道になった。
「じゃあまた明日。ちゃんと思い出したこと、教えてね!」
「う、うん?バイバイ」
・・・あれ、お昼のこと言われると思ったんだけど、忘れちゃったのかしら。
それとも、よっぽど気になることがあるのかな・・・。
そして翌朝、切絵は学校に来なかった。
kai 2005/03/03
12
昼休み、切絵の携帯に電話をかけてみた。
『電源が入っていないか、電波の……』
合成音。力の視界にはスパークが飛び交うような光景が広がる。
なんだろうこの胸騒ぎ。
――彼は、もしかしたら他の何者かと交代してしまうかもしれない。
どういう事だろう。過去を再構築し、消去する能力って……。
あの記憶は何なのだろう。
――さすがカンキリだね。僕の能力すらも乗り越えたみたいだ。
能力を乗り越えるって……。
幼なじみの男の子と女の子が、違う種類だけど、能力を持っているって……。
屋上に出てみた、どこまでも遠く雲が流れていた。
金網に手をかけて海の方をみる。
ビルの隙間に細く紺色の海が見える。
海……。
海に怖い物を捨てた。
海に飛ばした。
切絵ちゃんの手が光った。
――と、遠くに飛ばしたよ。と、遠く遠く。に、にっぽんかいこうとかいう所まで。
飛ばす。
手ひらの前にある物を遠くまで飛ばす。
障害物はすり抜ける。
距離は想像できる範囲まで。
ドラえもん。
のび太の海底鬼岩城。
夏休みに子供会で見に行った。
黒い黒い人間。
影のように黒い。
私のお腹の上にのしかかってくる。
順也ちゃんがお兄ちゃんにつかみかかる。
お兄ちゃんが順也ちゃんを殴る殴る殴る。
順也ちゃんの目が光る。
影、もやのような影がお兄ちゃんから出てくる。
影、影、影が!
ポケットの中の携帯がけたたましく鳴った。
発信者は切絵だった。
「ど、どうしたのよ、切絵、何で登校……」
微かな物音が力の視界を構成した。
順也君がトイレの中で携帯をかけているのが見える。
『よお、純。おに〜ちゃんだ。ひさしぶりだなあ』
膝が震えた。
知ってる、このしゃべり方知ってる。
『まだ思いだしてねえのか。くそ順也の野郎め余計な真似を』
「あ、あなた誰!」
『見えるよな、純、顔は順也だが、中身はお前の大好きだったおに〜ちゃんだ』
――けんきゅーじょってなーに?
――いろんな勉強するところだよ。
――順也君ものしりー
『日本海溝からここまで歩いて来たんだ。ちったあお疲れ様とか言って歓迎しろよ』
――僕は和夫って言うんだ、純ちゃん。
やさしそうだったお兄ちゃん。
やさしそうだった和夫おにいちゃん。
「和夫……さん」
『ああ、思いだしてくれたか、うれしいぜ純』
順也君の姿をした和夫さんはトイレのドアを開けて外に出た。
力の視界に荒れ果てた廃墟のような光景が広がる。
『お前の力対策で、外の音が入ってこないようにしてある。もちろん中の音も外にもれることはねえ』
和夫さんは喋りながら歩く。
廊下の床の上に……。あれは錆じゃないっ! 血だっ!
「き、切絵に何をしたのっ!」
『ああ、これか、これは切絵の血じゃない。あの生意気なガキに何かするのはこれからだ』
昼のニュース。ゴミ捨て場に少女の惨殺死体。
バラバラにされていた。
和夫さんが錆び付いたドアを開いた。手術室?
テーブルの上に……。沢山の。血まみれの。ペンチとか。ナイフとか。ノコギリとか。
手術台の上に切絵が居た。下着姿で縛られていた。
『ジュンペーッ!! 電話をきれーっ!!』
切絵が絶叫した。
『電話を切ったら、その場でこいつを殺す』
和夫さんがテーブルから斧を取り、振り上げた。
『まずはこいつの厄介な能力を封じねえとな』
「いやあああっ!!」
私の悲鳴が目の前の金網を震わせた。

かわうそうータン 2005/3/4
13
………
空が暗い。ココはどこ…?さっきの電話は…。ふと携帯を見ると真っ二つに折れて壊れてる。
何時の間にか意識を失ってたみたい。切絵の言葉だけが耳に響く。